これが解けるか!

Can this be solved!

これが解けるか!

Englishman in New York

 店の窓から外を眺める。川には屋形船やゴンドラのような舟がちらほらと行き交っている。観光客を乗せているのかもしれない。川の対岸には高層ビルが立ち並んでいる。この街の活気と生命力を表しているようにみえるし、(1)非人工物の入り込む余地がごっそりと削り落とされて、生命力の残骸が棒立ちしているようにもみえる。

 そういう風に感じるのは、それだけこの地域では(2)人間の支配力と影響力が大きいからかもしれない。よきにつけあしきにつけ、人間というのは自然を切り開いて生きている存在なのだろう。

 そんなことを考えながらぼうっと珈琲を飲んでいると、かかっている音楽が終わった。音楽がなくなると、一気に店内のざわめきが浮き彫りになり、ざわざわという音が耳の奥にしみ込んでくる。

 音楽はざわめきというものをマスキングする作用があるのだなあと改めて思う。他の人に会話を聞かれにくくなったり、他の人の声で会話が妨げられたりすることは少なくなるが、店の息遣いを感じにくくなるのは少しだけもったいないような気がする。

 しばらくすると次の音楽がかかり始める。StingのEnglishman in New Yorkだ。特徴的なイントロだからすぐにわかる。ああ、(3)この曲が流れてくることがわかっていたら、Stingと英国人に義理立てて紅茶と片面焼きのトーストを注文したのに。まあ、仕方あるまい。

 ざわめきを覆い始めた音楽に耳を傾けていると、後ろから声がした。ああ、やっと来たか。

「ガリレオ、遅くなってすまない」

「構わないよ。音楽を聴いたり景色を見たりぼうっとしたりして時間をつぶしてたから」

「ガリレオ、そういうのが好きだもんなあ」

「はかせだって好きだろ」

「まあね。あれ、このサックスソロは……これ、StingのEnglishman in New Yorkだね」

「ああ。はかせも知ってるんだな」

「結構好きなんだ」 

 この曲の主人公は周りの環境になじみきれない英国紳士。嘆くのもばかばかしくて平気なふりして気取ってすねているが、そんな彼が不満と自負を心の中で高らかに宣言している。そんな感じがしないでもない。そういう風にとらえると全くかっこよくないのだが、その方が何となく共感できるし、音作りがかっこいいから結局かっこよく聞こえてしまう。

「私も好きなんだ。サックスをブランフォード・マルサリスが演奏しているのは気に入らないけどね」

「へえ、なんで」

 はかせはすかさず私にそう尋ねる。

「なんとなくさ。優秀なおりこうさんっぽくて癇に障るからかな」

「えらく辛口な意見だな」

 はかせは苦笑いしている。

「で、誰ならよかったの」

「ソニー・ロリンズがよかったな」

「へえ、なんで」

 彼はよく、なんで、という。程よく、いいタイミングで。

「ロリンズは豪快で骨太な演奏が印象的だが、とても繊細な演奏をする。ロリンズが前面に出てしまわずに、程よく前に出つつも裏方に徹していれば、もっといいものができていたんじゃないかって思うことがあるから」

「そういうifを考えるの、結構楽しいよね」

「たまにならな」

「でも、ブランフォード・マルサリスの方がよかったかもよ」

「へえ、なんで」

 意外な切り返しに、今度は私が聞き返す。曲はあともう少しで終わろうとしているところだ。

「Englishman in New Yorkってさ、ニューヨークに住んでる英国人が周りの人間との埋められない違いや、彼らの行儀の悪さやとかに辟易して、自分は彼らとは違うんだって主張しようとしてる雰囲気がするんだよね。ブランフォード・マルサリスは英国人じゃないけど、彼もそういうこと思ってそうだと思わない。なんというか、世間との温度差に対して失望して拗ねている感じがするじゃないか。この曲にぴったりの感性だと思うよ」

 確かにそうかもしれない。私はうんうんと頷く。

 それに、と言って彼は続ける。

「ブランフォード・マルサリスは若いころ、ロリンズに憧れていたらしいんだ。音色はどっちかというとコルトレーンっぽいんだけど、ロリンズとも無関係じゃない感じがするじゃないか」

「そうだったのか。知らなかった。ただ、ブランフォード・マルサリスはなんというか、(4)田舎の空気を吸う経験や、時間を気にせずのびのび過ごす経験に乏しいものの音色のような気がするんだよ。私はそういうところがどうしてもひっかかるんだ。うまく言えないんだけど」

 曲が終わった。店内の雑踏がこだまし始める。

【問】

下線部(1)非人工物の入り込む余地がごっそりと削り落とされて、生命力の残骸が棒立ちしている

下線部(2)人間の支配力と影響力が大きい

について下記の問に答えなさい。

 

「一般に人間の支配力と影響力が強くなるほど、非人工物の存在比率は低減すると考えられる」

 この考え方についてあなたの見解を述べなさい。ただし、賛成の場合も反対の場合もどちらでもない場合も、意見だけでなく理由もきちんと述べること。

下線部(3)のようにガリレオが思ったのはなぜだろうか。

下線部(4)の経験に乏しいものとそうでないものは時間の感覚の育ち方が異なってくるという説があるが、どういう違いが生じるか考察しなさい。

※参考キーワード:時計時間、出来事時間