これが解けるか!

Can this be solved!

これが解けるか!

知己

 今日はライトが不知火文庫の書斎にやってきている。

 茶を飲みながら、研究や創作や教育などについて話をしていると、ふと先日ソラくんに自分で理由を考えさせたことについて思い出したので、そのことについてライトに話してみた。

「そうか、そんなことがあったのか」

「ライト。僕はもしかすると不適切なことやずるいことをしたのかもしれないな」

「さあね、それは君にも僕にも誰にもわからないことだと思うよ。ただ、そういう面もあるかもしれないとは思うけど。でも、そういうもんだろ、人間なんてさ」

「それはまあ……そうだと思うけど、彼は僕を慕って先生のように思ってくれているからさ。思ってくれていた、という方が正しいかもしれないけど」

「ソラくんが君のことを先生として慕っていようといまいと、どういう風に思っていようと同じことだよ。人間は自分勝手だし失敗ばかりする。そういう生き物だ」

 ぐうの音もでない。ますます気分が落ち込んでくる。そういうことを言ってほしいんじゃないし、人間がそういうものであるということは私だってある程度わかっているつもりだ。こういうことは自分自身の問題として心の中で消化するべきだったのかもしれない。

 みじめな気持ちとライトに対する少しの腹立ちと、申し訳ない気持ちがわき起こり、いまさらながら話さなきゃよかった、と後悔がこみ上げてくる。 

 ただ……、とライトがさらに続ける。

「君は少なくともソラくんのことを思って指摘した。そして、それについてよくなかったかもしれない、と今すこしばかり後悔したりなやんだり後ろめたい気持ちになっている。相手のことを大切に思っていれば何をしてもよいなどという謙虚さのかけらもないような考え方をしている人間とは違う。そういう風に節度を以て他者を大切に思うのはいいことだと思うし、相手にも何か伝わるものがあるんじゃないかな」

 

―――――――――――――――――

 すぐ理由を知ると、その先やその周りにある部分を心の眼で模索する動機を損ねてしまう。人というものは、避けるべきものとその理由がわかれば、その部分だけに小賢しく適応するきらいがある。これはたぶん私のわがままなのだろうが、私は彼の中に強く根付くそういう部分を少し抑えたかった。

 理由はそれだけではない。理由を言わないのは、どちらが正しいかわからないからだ。私のやり方がソラくんの能力や性格や環境などの条件を勘案してもなお適切である自信がなかった。それに、彼には自分自身で道を選んで成功と失敗をする自由がある。明示的に忠告することについてためらいを感じるほど、ソラくんは立派に成長しているのだ。

 忠告しないことは無責任かもしれない。しかし、彼に合わない方法を忠告として明示することはひどく迷惑で勝手なことのように思えた。そして、私は理由を言わずに自分の気持ちだけを伝えてそれを忠告代わりにした、ソラくんの感じ取る力にゆだねようと思った。

 だから、私は彼に全てを伝えなかった。自分で考えて従わないのももちろんありだということを伝える。

 彼なりのやり方の方がうまくいくこともあるし、より幸せに結びつきやすいことだってあるし、より賢い方法であることだってある。私にとっては彼と私のどちらが正しいかはあまり問題ではなく、彼がよりよい選択をできるならばそれでよいと感じた上での選択だった。

 しかし、結局はこのやり方だって無責任なのかもしれない。

―――――――――――――――――

 そんなことを考え過ぎると何もできなくなることは知っている。気分だってよくならないからそういうことはあまり深く考えない。それでも時々思い出して気になっていた。

 だが、ライトの言葉のおかげで少しだけ気分が晴れた。自分でもそうだとわかっていたし、同じことでほかの人が悩んでいれば同じ言葉をかけただろう。しかし、今は私が誰かからその言葉をかけてもらいたかった。

 

「ありがとう」

できるだけ感情を込めないように、さらりとライトに伝える。

「いいってことよ」

 なんだかんだで彼とは長い付き合いだ。いいもんだな、こういうことを話し合える仲間は。

 

【問】

〇ためらいとは何のためにあるか。どういうときに活かされるか。

〇思いやりや愛には節度が必要である。その理由について、必要ならば文中の内容を引用しながらあなたの見解を述べなさい。ただし、異なる考え方の人にもある程度受け入れられるように配慮して論を立てること。

〇理由を言わないことがよい効果を生むのはどういうときだろうか。また、理由を言わないことが悪い効果を生んでしまうのを抑えるためにできる工夫についてあなたの見解を述べなさい。